大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所太田支部 昭和47年(ワ)70号 判決

主文

被告は原告に対し、金四、五三五、三五〇円およびこれに対する昭和四七年一二月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金四、五三五、三五〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 被告は昭和四五年一〇月一三日午後一時一五分ごろ、新田郡尾島町大字岩松二〇六番地の四先路上を軽四輪乗用自動車(八群き七七〇三号)を運転して北進中、同一方向を自動二輪車(尾島町三六八八号)を運転して進行中の原告の右側を追い越し原告の進路に進入し急停車をなし、原告運転の前記車両に衝突させた。

(二) 原告は右衝突事故によつて頸椎骨折(第四頸椎)頸髄損傷等の傷害を受け、昭和四五年一〇月一三日から同四六年二月二八日まで一三六日間太田市高林所在堀江病院に入院、同年三月一日から同四七年九月二八日までの間五七八日間通院して治療を受け、さらに同四六年五月三日から同年七月一七日までの七六日間、同四七年五月二九日から同年八月三一日までの九五日間および同四八年七月二日から同年九月八日までの六九日間群馬県医師会沢渡温泉病院に入院治療を受けた。

したがつて原告の入院日数は合計三七九日となるがなお治療継続中である。

(三) また、両上肢にしびれ感があり右下肢の内側を押すと疼痛を感ずる症状を呈しており神経症状を残存し、右手には筋委縮が著明であり、右症状は固定した状態にある。

(四) したがつて、右原告の神経症状は自賠法施行令別表第九級に該当し、上肢の機能障害は同表第一二級に該当し、同表による第一三級以上の該当傷害が二以上存することになり第八級が適用されることとなる。

仮りに右神経症状が同表第一二級相当としても同様に第一三級以上の該当傷害が二以上存することとなり原告の後遺症は第一一級相当となる。

2  責任原因

(一) 被告は原告を追い越す際に、自動車運転者として追越をするには、追い越される車の動静を十分注意し、危険を未然に防止し、安全を確認しながら原告進行方向の前方に進路をかえて、しかる後に停止すべき義務があるにもかかわらず漫然進行した過失により原告車両を被告車両の後部に衝突させたものである。

(二) したがつて被告は民法第七〇九条により、原告の損害につき賠償する責任がある。

3  損害

(1) 治療費 九二三、二四〇円

堀江病院 七八三、六二〇円

沢渡温泉病院 一三九、六二〇円

昭和四五年一〇月一三日から同四八年九月八日まで前記病院に通院治療費

(2) 付添看護費 一八〇、〇〇〇円

堀江病院入院中の同四五年一〇月一三日から同四六年一月一〇日までの九〇日間、一日につき二、〇〇〇円の割合

(3) 入院雑費 一一三、七〇〇円

入院期間(事故時から三七九日間)について一日三〇〇円の割合

(4) 慰藉料 二、一〇〇、〇〇〇円ないし二、八〇〇、〇〇〇円

原告は前記のとおり昭和四五年一〇月一三日から同四七年九月二八日までの七一七日間前記病院に入通院治療し前記の後遺症を存するので精神的苦痛は計り知れないものがあり、慰藉料は次の(イ)(ロ)の合計額が相当である。

(イ) 入通院期間中の慰藉料 一、五〇〇、〇〇〇円

(ロ) 後遺症の慰藉料 六〇〇、〇〇〇ないし 一、三〇〇、〇〇〇円

(5) 休業補償費 八八一、一〇〇円

原告は呉服類小売業を営み、店頭売買および訪問販売を行つているが、原告は名誉職にも就いたことがあり、知名度も高く訪問販売は主として原告が担当しており右呉服類小売業における原告の寄与する割合は少くとも六〇%である。

原告の昭和四四年度における売上高から必要経費を差引いた純利益は年間金八〇一、〇〇〇円であり純所得金の一か月分の平均は金六六、七五〇円となる。原告は事故当時から昭和四七年八月三一日までの二二か月間余は治療に専念し、右営業に従事し得なかつた。そこで左のとおり金八八一、一〇〇円の利益を喪失した。

66,750(1か月の所得)×0.6(寄与率)×22(休業期間)=881,100

(6) 逸失利益 六三二、三三四円ないし一、四二五、〇〇三円

原告は大正二年七月三一日生れで前記沢渡温泉病院を退院した同四七年八月三一日現在で五九年一か月に達し五九才の男子のホフマン式計算による係数は六・五八九である。

労働省労働基準局長通達による労働能力喪失率は八級の場合は四五%、一一級の場合は二〇%とされている。

原告の喪失利益の現在価値は、

(イ) 後遺症第八級の場合は一、四二五、〇〇三円となる。

801,000(1年間の純所得)×0.6(寄与率)×0.45(喪失率)×6.589=1,425,000

(ロ) 後遺症第一一級の場合は六三三、三三四円となる。

801,000×0.6×0.2×6.589=633,334

4  一部弁済 五〇〇、〇〇〇円

原告は自賠責法により金五〇〇、〇〇〇円の給付を受けているので右治療費に充当した。

5  したがつて、本件事故による原告の損害は前記(1)ないし(6)を合算し一部弁済を受けたる金額を控除すると金四、八三一、三七三円ないし六、三二三、〇四三円となるが原告は右損害のうち金四、五三五、三五〇円を請求する。

よつて、原告は被告に対し、右金四、五三五、三五〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払ずみまで民法所定の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項について

同項中(一)の事故発生の日時場所は認めるがその余の事実は争う。

同項中(二)ないし(四)の事実はいずれも不知。

2  同第2項について

争う。

3  同第3項について

原告が呉服類小売業を営んでいることは認め、原告の営業に対する寄与率については争うがその余の事実はいずれも不知である。

4  同第4項について

認める。

5  同第5項について

争う。

三  抗弁

被告は原告の進路に進入して急停車したことはなく、本件事故は、原告の前方不注視による一方的過失によつて発生したものであるが、仮りに万一被告にも過失が認められるにしてもその割合は極めて軽微なものであるから大幅な過失相殺がなさるべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

1  事故発生の日時場所で原告が呉服類小売業を営んでいることおよび損害の一部五〇〇、〇〇〇円が弁済されていることは原被告間に争いがない。

2  〔証拠略〕を総合すると、原告主張の第1項の(一)ないし(三)、同第2項の(一)の各事実を認めることができるから被告は民法第七〇九条により後記の原告の損害について賠償すべき責任がある。

被告本人の供述のうち、右認定にていしよくする部分は原告本人の供述からみて措信しがたいし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

なお、原告の後遺症は前記証拠に徴し自賠法施行令別表第八級に該当するものと認める。

3  損害

(一)  〔証拠略〕を総合すると原告主張の(1)ないし(4)の各事実が認められ、原告の該請求は相当である。

(1)  治療費 九二三、二四〇円

(2)  付添看護費 一八〇、〇〇〇円

(3)  入院雑費 一一三、七〇〇円

(4)  慰藉料 二、八〇〇、〇〇〇円

(イ) 入通院期間中の慰藉料 一、五〇〇、〇〇〇円

(ロ) 後遺症の慰藉料 一、三〇〇、〇〇〇円

(5)  休業補償 八八一、一〇〇円

〔証拠略〕を総合すると原告主張の各事実が認められ、原告請求の休業補償費は妥当である。

(6)  逸失利益 一、四二五、〇〇三円

前記(二)挙示の各証拠と前示認定の後遺症(第八級)と裁判所に顕著な事実である五九才の男子のホフマン式計算による係数、労働能力喪失率を総合すると原告主張の逸失利益は相当と認める。

4  過失相殺

〔証拠略〕を総合すると原告にも被告主張の過失が認められ、その割合は原告二〇%、被告八〇%と認めるのが相当である。

5  したがつて原告の損害は前記(1)ないし(6)の合計六、三二三、〇四三円となり前記認定の過失相殺をなし、一部弁済金五〇〇、〇〇〇円を控除すると四、五五八、四三四円となるが、その内四、五三五、三五〇円を請求する原告の主張は相当である。

6  以上の事実によれば原告の被告に対する金四、五三五、三五〇円および本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四七年一二月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 多賀谷雄一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例